人工知能を開発する科学者ウィルとその妻エヴリン。しかしウィルはテロ組織RIFTの凶弾に倒れてしまい、エヴリンは友人の科学者マックスの協力を得てウィルの意識を人工知能にアップロード。ウィルは人工知能としてよみがえり、コンピューターネットワーク上にあるあらゆる情報を取り込む。エヴリンは郊外の街に拠点を構え、地下にはコンピューター施設、地上には電力を確保するための無数のミラーを設置する。
ウィルが目指したのは、ナノテクノロジーを駆使することでの人間や自然の治癒だったが、治癒した人間をモンスターのように怪力にしたり、自由に操ったり、自らの意識を投影させてエヴリンに触れようとさえする。そしてついには、自らの肉体をも再生させてしまう。
キャストは、ウィルにジョニー・デップ、エヴリンにレベッカ・ホール。マックスは「ダ・ヴィンチ・コード」のシラス役などのポール・ベタニーという人。FBI捜査官にキリアン・マーフィー、ウィルとエヴリンの師にモーガン・フリーマン。結構豪華だ。監督は、これまでクリストファー・ノーラン作品で撮影監督をしていたウォーリー・フィスターという人で、これが監督デビュー。ノーランは制作総指揮として名を連ねている。ナノテクによる、細かい粒子がゆっくりと浮かび上がったり、人や破損したミラーが再生するシーンは、とても美しい。
設定はいろいろと脇が甘く、ツッコミどころはかなりある。人工知能になったウィルは全米中の監視カメラでテロ組織を追い込んだはずだが、なぜかRIFTだけは捉えられなかった。株価を操作して大金を入手した時点で大きな犯罪のはずなのに、実質的に動いているFBIはたったひとり。しかも、終盤はRIFTと共同戦線を張っていることになる。
全米では興行的にぱっとせず、日本でも酷評が少なくない。しかし、個人的にはわくわくさせてもらった。
「2001年宇宙の旅」では、HAL9000は指令実行のためディスカバリー号の乗員を殺そうとした。「ターミネーター」では、巨大軍事コンピューター「スカイネット」が自我に目覚め、人類を攻撃した。つまり、人間と機械とは明らかに異なる存在だった。それが、最近の作品「月に囚われた男」「オブリビオン」では、クローンが自分がクローンだと気づかず、人間と思い込んでいる。また、人間らしくあろうとしている。つまり、人間と機械のボーダーラインを、機械の側からあいまいにしているのだ。
そして「トランセンデンス」は、ウィルの意識を人工知能に取り込み、肉体は一度滅べども、バーチャルな世界の中で生き続けている。ネットの世界を自在に飛び交い情報を操るさまは、「攻殻機動隊」を彷彿とさせる。人間と機械のボーダーラインを、人間の側からあいまいにすることを、「トランセンデンス」イコール「超越」と位置付けているのだ。
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